人間と植物の関係は究めて密接である。花壇や家庭菜園が私たちの生活に潤いを与えてくれるばかりではなく、私たち普段口にしている食物の大部分は健全な植物からの賜物である。
植物は、光、水分、温度、土壌における養分など適切な環境が与えられると通常健全に生育する。しかし、不適切な環境に置かれると植物も「病気」となる。植物が病気になる原因(病因)は人や動物が病気になる場合と同様に栄養分の不足や微生物による感染などがある。植物病の病因は栄養分、水分、温度、光など物理化学的な条件の非生物的な病因と微生物、動物、植物によって影響を受ける生物的な病因に大別される。
植物病は食料の収穫量を低下させるばかりではなく、農産物の品質低下させる。ちなみに、2002年世界の栽培植物生産額は9,500億ドルであるのに対し、可能作物生産額は1兆5,000億ドルと推定され、実に約36%もの生産が植物病その他の要因で失われている。これらの損失を防ぐためには、さらなる植物病の防除技術向上が重要である。
日本は温暖多湿な気候で病害虫の発生に好適な環境であり、植物病の発生源は家庭菜園や市民農園であることが多い。我が国では、戦後、病害虫防除所が各県に複数設置されたが、行政改革により各県1箇所に統合され、地域に密着して病気を診断する体制が弱体化している。そのため、一般市民を対象にした植物病院を立ち上げる。
難波成任著「植物医科学」から